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東京高等裁判所 昭和31年(く)96号 決定 1957年2月08日

少年 M(昭和一五・一・四生)

抗告人 少年M

主文

本件抗告はこれを棄却する。

理由

本件抗告理由の要旨は抗告人は昭和三一年一一月五日東京家庭裁判所八王子支部において昭和三一年一〇月五日午後八時五〇分頃東京都北多摩郡国分寺町平兵衛新田四九一番地内国鉄中央線下り線東京起点三四粁三〇米の鉄道軌条上に附近に在つた古枕木一本を横たえ置き折柄進行して来た国分寺駅発午後八時四五分立川行一九二三A号運転士竹田勇吉運転多数乗客の現在する電車をして接触させ危く脱線、転覆を免れる事故を発生せしめたという事実によつて中等少年院に送致する旨の決定の宣告をうけたが、抗告人は原裁判所においては親に心配をかけてはいけないと考え本籍、住所、氏名、保護者の氏名について虚偽の陳述をし、あたかも保護者のないもののように陳述したのであるが、本籍氏名は前記のとおりであり、保護者父は本籍地に現存しているのであつて、家に帰えれば真面目に仕事もできるのであり、原決定の処分は重すぎるから更に相当の裁判を求める為に本件抗告に及ぶというに在る。

よつて本件記録を調査して按ずるに、抗告人が原決定摘示の如き事実を敢行したことは明瞭であり、原裁判所において本籍不詳、氏名はTで保護者は現存しない旨陳述したことは抗告人主張のとおりである。

而して当審において取調べた事実に依れば、抗告人の本籍は兵庫県○○郡××村△△△○○○番地でここに両親は健在し農耕に従事し乍ら日雇などをして生計を維持しているものであり、抗告人は昭和三〇年四月本籍地の中学校を卒業すると同時に兵庫県西宮市××××町△△番地所在株式会社○○クリーニング店に就業し爾来同店に宿泊してクリーニング業の見習に従事していたものであるが、漸次都会の悪風に染み、昭和三一年三、四月頃からは喫煙、喫茶店通い等の悪習をおぼえ、同年八月頃、主家の集金約一三〇〇〇円を拐帯家出し、各地を放浪の末東京都内に来り寝食に窮した揚句本件所為に出たものであることが認められ、その性格、境遇、その他諸般の事情を綜合すれば、抗告人である少年の健全な育成、性格の矯正、環境の調整の為には抗告人を少年院に収容教育するを最も適当と認める。

原決定には法令の違反、重大な事実の誤認は元より処分の著しい不当も存在せず、抗告人主張の事由は存しない。

よつて本件抗告は理由のないものであるから、少年法第三三条第一項に則り主文のとおり決定する。

(裁判長判事 久礼田益喜 判事 武田軍治 判事 石井文治)

別紙(原審の保護処分決定)

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

少年は浮浪して国鉄中央線脇の木立の中で睡をとつた後電車又は汽車の往来を妨害しようとして、昭和三一年一〇月五日午後八時五〇分頃東京都北多摩郡国分寺町平兵衛新田四九一番地内国鉄中央線下り線東京起点三四粁三〇米の鉄道軌条(国分寺駅国立駅の中間)上に附近の土堤にあつた古枕木一本を運んで横たえ折柄進行して来た国分寺駅発午後八時四五分立川行一九二三A号運転士竹田勇吉運転多数乗客の現在する電車をしてその四〇米手前でこれを発見急停車したが及ばずしてその前部排障器に接触し危く脱線転覆を免れる事故に逢着させ電車往来の危険を生じさせたものでこの事実は少年の審判廷に於ける自白並に告訴状竹田勇吉の司法警察員に対する供述調書、司法警察員作成の実況見分調書等によつて認められ、刑法第一二五条第一項に該当し行為の危険性からして少年の犯罪性も大で収容保護の必要があるから少年法第二四条第一項第三号を適用して主文のとおり決定した。

(昭和三一年一一月五日 東京家庭裁判所八王子支部 裁判官 鈴木正二)

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